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大人しい癌とは?

[管理番号:804]
性別:女性
年齢:53歳
田澤先生
前々から気になってる事があり、質問させて下さい。
(自分の事での質問とは内容が違うので新たにメール致します)
先生もよく言われてるように、「大人しい癌」=ルミナールA型が多いようですが、
「大人しい癌」だから、10年経っても油断できないと言う事を目にする事が多いです。
と言う事は、全く大人しくないように思うのですが?
トリプルネガティブのようなグレード3、ki67を測れば90超えてるような悪性度の強い癌でも、再発しない人の方が多いのに、何故大人しいはずのグレードもki67も低い癌のくせに、「再発」するのでしょうか?
10年20年もまだ再発するかもしれないと、怯えて暮らすのなら、ある意味3年で勝負できるトリプルネガティブの方が良かったのではないか?と思う人もいるんじゃないでしょうか?
よろしくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 時々、乳癌の晩期再発の話をする際に「質問者と同じところ」でひっかかる方がいらっしゃいます。
 私が、良く例に出すのが「膵癌」との比較ですが、ここでは「膵癌」「トリプルネガティブ」「ルミナール」を数字を示して説明します。
たとえば、あるステージの再発率を
「膵癌」50%
「トリプルネガティブ」30%
「ルミナール」25%
とします。

①術後1年の時点
「膵癌」 100人中50人死亡
「トリプルネガティブ」 100人中0人死亡
「ルミナール」 100人中0人死亡
②術後1年~2年の間
「膵癌」 100人中0人死亡
「トリプルネガティブ」 100人中8人死亡
「ルミナール」 100人中0人死亡
③術後2年~5年の間
「膵癌」 100人中0人死亡
「トリプルネガティブ」 100人中15人死亡
「ルミナール」 100人中8人死亡
④術後5年~10年の間
「膵癌」 100人中0人死亡
「トリプルネガティブ」 100人中7人死亡
「ルミナール」 100人中14人死亡
⑤術後10年~20年の間
「膵癌」 100人中0人死亡
「トリプルネガティブ」 100人中0人死亡
「ルミナール」 100人中2人死亡
⑥術後20年以降
「膵癌」 100人中0人死亡
「トリプルネガティブ」 100人中0人死亡
「ルミナール」 100人中1人死亡

○感覚的にはこんな感じです。
「大人しいから」
・再発率自体が低い(ただ、同ステージ間でサブタイプによっての違いはそれ程ありません)
・再発するとして、(細胞増殖がゆっくりのため)「早い時期ではなく、遅い時期(術後5年以上)」にピークが出ます。
 
「「大人しい癌」だから、10年経っても油断できないと言う事を目にする事が多い」
⇒上記で示した様に(膵癌は増殖が激しいので、再発したら1年待ってくれない)のに対し、(ルミナールは大人しいので)10年過ぎて「ようやく増大するケース」が『少数ながら』存在するのです。
 
「トリプルネガティブのようなグレード3、ki67を測れば90超えてるような悪性度の強い癌でも、再発しない人の方が多いのに、何故大人しいはずのグレードもki67も低い癌のくせに、「再発」するのでしょうか?」
⇒数字を見てもらえば、おわかりのとおり、
 同ステージで比較して「5%」程度の違いはあると思いますが、「ルミナールも(ゆっくりですが)再発」するのです。
 「増殖が速いから絶対再発する」とか「増殖が遅くて(大人しいから)絶対再発しない」という考えは『完全な誤り』です。
 
「10年20年もまだ再発するかもしれないと、怯えて暮らすのなら、ある意味3年で勝負できるトリプルネガティブの方が良かったのではないか?と思う人もいるんじゃないでしょうか?」
⇒勿論、そのように考える方もいらっしゃるでしょう。
 再発無しにこしたことはありませんが、(もしも再発するとして)皆が皆「どうせ再発するなら早い方がいい」と思っている訳ではないでしょう。
 ♯(同じ)再発するにしても「できるだけ長く生きたい」と考える方もいらっしゃいます。
 
○私が、このQandAで質問を受けている際に、「トリプルネガティブは再発しない筈が無い」と頑なに信じていらっしゃる人がいます。
 それを言えば癌の中でも予後の悪い代表である 「膵癌」でも半数が「再発しない」のです。 
 乳癌でいえば、サブタイプによる「予後の違い=再発率」の違いはそれ程でもありません。
 つまり「増殖の強い癌でも大人しい癌でも、再発の確率」にはそれ程違いはないのです。
 ただ、質問者のおっしゃるような「再発時期」には違いはあります。(どちらがより好ましいかは、人それぞれの価値観です)
 
○今一度、「サブタイプ」ではなく(再発率に関しては)「ステージが重要」という正しい認識が必要です。
 ♯サブタイプは「予後では無く、治療方針に重要」なのです。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生
お忙しいところ、詳しく分かりやすい説明ありがとうございました。
今回の説明を受けて、私自身も含め、私の周りの乳がん患者の方々もかなりの割合でトリプルネガティブやルミナル型についての再発率について、認識に誤りがあると言う事を実感しました。
またネットで「入院中同室だった人が3年目で一人死に、4年目で一人死んだ」や、「入院中同室だった人のうち二人が10年超えて骨転移した」等と書かれているブログなど見て、どんよりとする時もありますが、これも、滅多にない事として受け止めた方が良いのですね?(いずれも4人部屋6人部屋)
「大人しい癌」については、再発時期(要するに増殖率)に差が有り、悪性度の為かトリプルネガティブの方が、若干再発率、死亡率も高いことは理解出ました。
ただ、そうなると「大人しい癌」なのに、血管を破って、多臓器に住みつく「力」があるのはどうしてなのでしょうか?
悪性度が高いと言われてる癌でも、転移しない人の方が多いのに、グレードが低いのに、増殖率が低い為に時間がかかったとしても、この力があるのはどういう事なんでしょうか?
転移する力にグレードの評価などはあまり意味が無いと言う事でしょうか?
よろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
『「入院中同室だった人が3年目で一人死に、4年目で一人死んだ」や、「入院中同室だった人のうち二人が10年超えて骨転移した」等と書かれているブログなど見て』
⇒こんなブログを書く人の気がしれません。
 全く何が目的なのか?
 事実かどうかは別として…
 「無関係の人をげんなりさせる内容」など社会に不必要です。

回答

『「大人しい癌」なのに、血管を破って、多臓器に住みつく「力」があるのはどうしてなのでしょうか?』
⇒「大人しい癌」とは「ゆっくり増殖する」だけの話です。
 「癌」を勘違いしていますか?
 「大人しい」癌でも(ゆっくりなだけで)十分な大きさに増大すれば、「転移・再発」するのです。
 
 もしも「その能力を持っていないのなら」それは「癌ではありません」
 
「悪性度が高いと言われてる癌でも、転移しない人の方が多いのに」
⇒「グレードが低い癌」は(同ステージで比較すれば)もっと「転移しない人の方が多い」です。
 
「グレードが低いのに、増殖率が低い為に時間がかかったとしても、この力があるのはどういう事なんでしょうか?」
⇒「グレードが低いと、その力がない」のであれば「それは癌ではありません」
 転移・再発の能力がなければ「それは癌とは呼びません」
 
「転移する力にグレードの評価などはあまり意味が無いと言う事でしょうか?」
⇒私が、質問者の問答を見ていて感じたのは(多くの方が陥っている)「核異型度やサブタイプで全てを説明」しようとしているという点です。
 ★大人しい癌でも「ステージが高ければ」それだけ「癌細胞が体に残っている」確率が高くなり、「それらが、(ゆっくり)増殖し、(やがて)転移・再発する」のです。
 逆にグレードの高い癌でも「ステージが低ければ」それだけ「癌細胞が体に残っていない」確率が高くなり(結果として)「転移・再発しない」のです。
○私が常日頃、予後には「サブタイプでなく、ステージが大事」というのはこういう意味からです。
 
 

 

質問者様から 【質問3 とても参考になりました。】

田澤先生
ブログの件に関しては、「私の経験が皆さんに勇気をあたえればと思いブログを始めました。」と言うような挨拶を書かれてる方が多く、実際に、勇気を貰うと言うよりは絶望的になる人の方が多い(コメントを書いてる常連の方たちは除く)のでは無いかと思っています。
その理由でまわりにもネットを見なくなったと言う人は多いです。
ただ、「大人しい癌」という言葉については、すい臓がん(身内をすい臓がんで亡くしています)などの強烈ながん細胞に比べれば、進行の遅い、再発しても手の施しがあるような乳がんは、それに比べれば「大人しい癌」であるのでしょうが、私達一般人にとっては、誤解を招く言葉でもあるのです。
今回の質問について、豊富な知識でとても分かりやすく説明して下さいまして本当に参考になり、ありがとうございました。
乳がん告知をされ、闘病中の悩み多い方々がこのサイトに無事ヒットしてたどり着けて、正しい知識を吸収できる事を祈っています。
 

田澤先生から 【回答3】

 こんにちは。田澤です。
 感覚的にご理解いただいてありがとうございます。
 やはり「情報過多(しかも、刺激的なものがより好まれる傾向あり)」が大変な誤解を招いていることを実感します。
 最後に付記しますと(繰り返しになりますが…)
 「グレード1の癌」も「グレード3の癌」も「ある程度以上、体に残っていれば(少数であれば駆逐されると想像します)そのスピードに差はあれ、再発」します。
 「グレード1と3の一番の違い」は増殖スピードなのです。
 実際に「nuclear grade核グレード」の点数は「nuclear atypia核異型度(核の形)の点数」+「mitotic counts核分裂の数を点数化」で計算されます。